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「終わらない毎日の終わりまで」続きの2。

お疲れ様です、鳴宮です。
予想外に終わりませんw
もう少々お付き合いください。たぶん次で最後です。

次の更新は来週の日曜日の予定です。
すみませんが、気長にお待ちください(´Д`;)

 家に帰る道は、人通りが多い。
 団地にはたくさんの人が住んでいるからだろう。みんなのゴールが同じだから、自然と人の流れが出来る。
 胸の痛みは少し和らいだけれど、余韻がぼんやり残っている。
 あのとき、サンノミヤさんはどんな表情をしていたのだろうか? 僕は寝たふりをしていて見ていなかった。見なかったほうが良かった

のだろうと、なんとなく思う。
 見ていたら、僕はきっと。
 きっと――。

 部屋の隅っこで。
 いつものように膝を抱える。
 オレンジ色の光が徐々に紺色に変わっていって、闇が落ちる。
 肌寒い。
 頭のなかにはずっと、あのときのサンノミヤさんの顔が浮かぶ。
 とはいっても、僕は見ていないから、想像した顔だけど。
 淋しそうな顔が、何度も浮かぶ。
 僕は哀しくなってくる。
 無意識に、胸の辺りの服を鷲掴みにしていた。
「シュンスケ、ごはんよ」
 ふすまが開いて、母親が顔を出す。
「……うん、」
「具合、悪いの?」
「…ううん…」
 僕の足に、母親の影がかぶさる。その輪郭を目でなぞる。
 母親は、僕が今感じている胸の痛さを、知っているだろうか?
 サンノミヤさんがどんな表情をしていたか、僕よりわかるだろうか?
 影をたどると、母親の足があって。足を伝って――顔が、見えた。
 目が、合う。
 母親と目が合ったのは、はじめてかもしれない。
 北海道に母親が迎えに来て、僕が東京に来て、ずいぶん経つのに。
 母親は少し驚いたけれど、目を逸らしはしなかった。
「あ…、」開いた口を、いったん閉じる。もう一度、開く。「………ぁ、」声が、裏返る。変な声。「――の…」
「うん、」
 母親が声で頷く。
「僕、ともだちを――」言って、自分で自分に、驚く。「ともだち、を」
 ともだち。
 サンノミヤさん。
 ともだち。
「哀しい気持ちに、させて…」
「うん、」
「それで、どうしたら、いいか…わかん、なくて…」
 どうしてだろう。
 僕は、今、どんな顔をしているのだろう?
 あのときのサンノミヤさんと、同じような…?
 鼻の奥がつんとする。玉ねぎを切ったときに似ていて、でも、違う。
 母親が、かがみこむ。膝を抱える僕と同じ目線まで。僕は慌てて、顔ごと目を逸らした。
 みっともないと思った。
 息苦しさが、喉元からこみ上げてくる。
 口を開いたら、短い息が飛び出した。フライングだ。
 母親の手が、僕の頭に触れる。髪の毛の表面を、なぞるように。
 壊れ物に、触れるように。
「シュンスケは、その子のことが、大切なのね」
 ぽつり、母親が言う。ひと言ひと言が、畳に落ちて転がる。僕はそれを探すように、視線を下に向ける。
「……、…」
 声にしたいことがある。けれど、口を開いても、短い息が細切れに飛び出るばかりで。
「ほんとの、友達、なのね」
 母親が言う。ともだち。そのことばは、畳ではなく、僕の胸のなかに、落ちた。

 生まれてからずっと、北海道の施設で育った。
 周りは似たような境遇の子ばかりだったけれど、僕はそのなかの誰とも親しくならなかった。
 施設の職員にもなつかなかった。
 小学校でも僕は、誰とも親しくならなかった。
 僕と世界は隔絶していて、僕は誰とも繋がっていなかった。
 きっとあのころのクラスメイトたちは誰も、僕のことなんか覚えていない。
 母親が迎えに来て、東京に来た。
 やっぱり僕はひとりだった。
 母親は居たけれど、僕は近づかなかったし、母親もまた、近づいてこなかった。
 だから僕は、いつも部屋の隅っこで、膝を抱えて座っていた。
 それしか出来なくて、それが正しいのだと、自分の意識に刷り込んで。
 でも本当は、
 ほんとうは――

「傷つけたことを、後悔してるのね」

 そう、
 そうだ。
 僕は、傷ついていた。
 世界の誰とも繋がっていないことが、淋しくて、哀しくて。
 傷ついていたんだ。
 サンノミヤさんのあの声は、僕がずっと、抱えてきた痛い感覚と同じで。
 彼女もまた、傷ついていたんだ。
 僕の、態度に。
 僕は、自分が傷ついていたことと同じ事を、サンノミヤさんに、してしまったんだ。

 母親の手に、ほんの少し力がこもって、僕は引き寄せられる。
 顔に、ほんのり温かい、布の感触。その奥の、少し早い――心臓の音。
 自分じゃない誰かの、感触。
 おかあさんの、感触。
 教室の窓際の席で、午後の陽射しが照らすような。
 否、それよりもずっと、温かくて、やさしい。
 視界がぼやける。唇が震えて、への字に曲がる。我慢が出来ない。
 息を吸う。ずるずる、鼻が鳴る。
 息をするために口を開いた。
「ぁ、ああ、ぁ…」
 変な声が出た。情けない声だと、思った。でも、止まらなかった。
「あ、ぁあ、ぅあ…」
 泣いているのだということ気づくまで、しばらくかかった。
 そういえば、僕は今まで、泣いたことがない。
 母親の手が、腕が、体温が。
 サンノミヤさんの顔が。
 胸の中の、痛みが。
 僕のなかで渦を巻いて、涙腺から、流れ出す。

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